村井良徳先生と巡る、3000mの「デジタル植物園」ツアー
乗鞍岳の魅力と概要
乗鞍岳は、中部山岳国立公園の南端に位置する壮大な山で、南北15km、東西20kmにもおよぶ広大な山域を持ち、長野県松本市と岐阜県高山市にまたがっています。その山容が「馬の鞍」に似ていることから、「乗鞍」と呼ばれるようになりました。
- 主峰「剣ヶ峰」
標高は 3,026m で、乗鞍岳の最高峰です。 - 23のピークと7つの池
乗鞍岳全体としては、2,500m以上のピークが23、池（湖）が7つ、平原が8つあります。 - 活火山
乗鞍岳は約100万年前以上前から火山の歴史を開始し、約30万年かけて現在の姿を作った活火山です。入山届が義務化されています。 - 日本一高い場所にある車で登れる場所
かつては、乗鞍スカイラインと乗鞍エコーラインの開通により、畳平（標高2,700mを超える高山域）は車で登れる日本一高い場所として人気を集めました。しかし、現在は自然保護のためマイカー規制が実施されています。シャトルバス、タクシー等をご利用下さい。 - 楽しみ方
5月中旬の乗鞍スカイライン開通から10月末の閉鎖時まで、畳平を基点に体力に合わせて比較的安全で楽に標高2,700m以上の登山を体験できる山岳公園です。
乗鞍スカイラインの桔梗ヶ原からの眺望です。
例：濃飛バスで高山バスセンターから行く場合（５月１５日～１０月３１日）
| ＊到着地 | 10：30 乗鞍岳頂上小屋（3,000ｍ） |
|---|---|
| ↑畳平 | 8：40 乗鞍畳平（2,702ｍ）～肩ノ小屋（2,750ｍ） |
| ↑中継地 | ほおのき平 7：43着 7：55発 乗鞍畳平行 |
| 出発地 | 7：00 高山ＢＣ（573ｍ） |
剣ヶ峰頂上で3,000ｍの眺望と自然体験を満喫して下山、その日の夕刻までに高山市内、奥飛騨温泉郷、松本市内等に移動できます。
夕暮れの頂上小屋前からの展望です。
登山ガイド
畳平を基点として、個人の体力や状況に応じて、主峰で最高点の剣ヶ峰のほか、畳平周辺では富士見岳、大黒岳、魔王岳の4峰に登頂できます。
1. 剣ヶ峰（けんがみね）：標高3,026m
乗鞍岳の主峰で、標高3,000m超の体験が安全に留意して少し頑張れば得られます。下山時が特に注意が必要です！
コース概要
①畳平から鶴ヶ池園路を鶴ヶ池を左手に見て進み、県境広場で右折し、富士見岳登山口を左に見て専用道路を通って肩ノ小屋へ。
②畳平のバスターミナル横の階段を下りお花畑の園路を通り不ヶ消池に向かい池の手前で階段を登り専用道路へ、その後は肩ノ小屋へ。6月頃から通行。
③畳平から鶴ヶ池園路を①同様に進み富士見岳登山口から富士見岳頂上を踏み専用道路へ下山。その後は肩ノ小屋へ。
途中右手に上る旧コロナ観測所への道路には入らないようご注意ください。肩ノ小屋で少し休憩・体調チェック・トイレを済ませて出発します。
注 : 登山道ならびに剣ヶ峰頂上にトイレはありません。
肩ノ小屋から山頂まで
標高差約250m、距離約1,200m。 所要時間 : 登り60分、下り40分が目安です（ゆっくり、余裕をもって）。
乗鞍岳主峰群です。左のピークが剣ヶ峰、中央のピークが蚕玉岳、右の丸いピークが朝日岳です。
行程
- しばらくはハイマツに挟まれた安山岩が転がる道。少しカーブするあたりから勾配がきつくなり、ガレ場がひどくなるため転石に注意が必要です。左手に大岩がある辺りが中間部。
- 朝日岳の岩場を登りきると、蒼い水を湛えた権現池が見える鞍部に到着。
- 蚕玉岳（こだまだけ/2,979m）の山頂で、剣ヶ峰山頂の様子を観察し、体力の調整や渋滞時の時間調整。
- 頂上へは分岐の道標が建つケルンを左手に進み、頂上小屋に到着。
- 頂上小屋前のテラスで北アルプス、八ヶ岳、富士山を中心にした南アルプスの展望を堪能した後は頂上へ。
頂上
- パノラマ
正面に乗鞍岳第2の高峰大日岳、屏風岳などの乗鞍の峰々。天候に恵まれれば、御嶽山、白山、北アルプスの峻峰、遠くは南アルプス、中央アルプス、立山連峰のパノラマが展開します。 - 下山時の注意
山頂は広くないので、休憩後は速やかに下山しましょう。転石・落石に注意し、絶対にX印の付いた石には触ったり、乗ったりしないでください。
畳平周辺のピーク
- 魔王岳（まおうだけ）：標高2,764m
畳平から一番短時間で手軽に乗鞍の景観と風情を楽しむことができる山です。 所要時間 : 登りで約20分。 景観 : 途中左右に鶴ヶ池、亀ヶ池を眼下に見て山頂園地へ。園地からは北アルプスのパノラマが楽しめます。 - 大黒岳（だいこくだけ）：標高2,772m
ライチョウの生息地になっており、観察できる確率が高い場所です。 所要時間 : 畳平から登りで約30分。 景観 : 園地からは噴煙を上げる焼岳を中心に、黒部五郎岳、笠ヶ岳、双六岳、槍ヶ岳、穂高連峰の峰々が展望できます。天候に恵まれれば遠く北信越・南信の峰を遠望できます。
注意 : ライチョウの生息地のため、できるだけ静かに散策しましょう。 - 富士見岳（ふじみだけ）：標高2,817m
魔王岳が行き止まりなのに対し、剣ヶ峰方面へ縦走気分も味わえる山です。
所要時間 : 畳平から雷鳥の碑まで約45分。
道 : 全体にザレています。
景観 : 山頂からは乗鞍岳全体が展望できるほか、眼下には乗鞍高原の集落や松本市街、状況次第では富士山まで遠望できます。
乗鞍エコーラインの県境ゲート付近です。左のピークが魔王岳、右のピークが大黒岳。池は鶴ヶ池です。
富士見岳頂上です。右前方の一番高いピークが剣ヶ峰です。右端のコロナ観測所のドームは撤去されました。
自然観察ガイド（植物・動物）
乗鞍岳は、高山植物や国の特別天然記念物ライチョウをはじめとする動物たちが生息する、多様性に富んだ自然の宝庫です。
高山植物
気候により前後しますが、6月中旬頃から9月下旬頃までの約3ヶ月間、約60種類の高山植物を観察できます。
- 著名な観察場所
畳平のお花畑のハクサンイチゲの大群落が著名ですが、近年は剣ヶ峰登山道の中間辺りから鞍部にかけ、左側のガレ場に展開する高山植物の女王・コマクサの大群落が必見です。7月上旬から9月下旬まで登山道の足下から遠方まで観察できます。 - 畳平の「お花畑」
一周約30分。折々に多数の花が一度に観察できます。 - 「鶴ヶ池園路」
乗鞍らしい景観と併せて花が観察できます。 - 「肩ノ小屋登山道」
遅い時期に盛期を迎える大雪渓横の道。 - 各登山道脇、道路沿いなど多所。
ハクサンイチゲが盛期を迎えた頃の畳平のお花畑です。
剣ヶ峰登山道中間手前辺りのコマクサ群落です。
主な種類（約60種）
キバナシャクナゲ、クロユリ、チングルマ、イワツメクサ、ウサギギク、コマクサ、ハイマツ、シナノオトギリ、ハクサンイチゲなど。
動物
乗鞍岳の動物を代表するのは、国の特別天然記念物に指定されているライチョウです。
- ライチョウ : 最近の調査では４０つがい、総数約１００羽が生息すると推定されています。 観察時期 : 5月15日の乗鞍スカイライン開通時の冬毛の白を残す姿や、7月の数羽のヒナを連れた家族連れなど、様々な姿態を登山道で観察できます。
- その他の鳥類 : 独特の飛行姿が目を引くホシガラス、イワヒバリ、イワツバメ、カヤクグリなどが観察できます。
- 哺乳類 : 近年はツキノワグマの目撃が増加。熊対策として鈴等をご用意下さい。ライチョウの天敵であるホンドキツネやオコジョも生息。時には冠雪の峰に立つニホンカモシカを観察できます。
- 昆虫 : 花の盛りには数種類の蝶や蜂が飛来します。
安全に楽しむための注意事項
乗鞍岳は高山植物や展望の楽しみが詰まった高山帯である反面、風雨を避けることができない危険地帯でもあります。また、貴重な自然が残るため、規制の厳しい特別保護区に指定されています。
登山・気象に関する注意
- 装備と計画 : 万全の装備で、充分な時間のゆとりを持った計画で望んでください。
- 急な天候変化 : 乗鞍岳の天候の変化は急激で早く、回復も遅れる傾向にあります。畳平（標高2,700m）は森林限界を超えた高山域で、気象変化が多彩で劇的です。
- 気温と体感温度 : 高度は100m上がるごとに約$0.6\text{度}$下がるといわれ、風の影響や雨・霧による濡れが加わると体感温度はさらに低くなります。
- 登山道 : 路面が砂礫や転石に覆われたところがあり、地形的に危険な箇所もあります。
- 登山時の行動 :
- 体調が悪くなれば速やかに下山して下さい。
- 畳平から1時間以内で往復できる山でも、標高は2,700m以上です。天候の急変にご注意下さい。
- 乗鞍岳は熊の生息地です。適切な距離を保てるよう鈴等の音の出る物を持ち、複数で行動してください。
- 午後の遅い時間の登山は控えて下さい。
- 緊急時の窓口 : 高山病や怪我などが発症した際の救急要請や救護を求める窓口は特にありません。7月から10月の繁忙期の土日はバスターミナルの診療所で医師の診療が受けられます。
国立公園・環境保全に関する遵守事項
乗鞍岳の貴重な自然を未来に伝えていくために、次の事項を必ず守ってください。
- 決められた道を歩き、歩道から出ないでください。
- 高山植物（木・竹・石・土等含む）を採らないでください。植物を踏まないようにしてください。
- ゴミはお持ち帰りください。
- たばこの吸い殻は捨てないでください。たき火はしないでください。
- トイレはきれいに使ってください。
- ペットは持ち込まないでください。
まとめ
乗鞍岳は、初心者から本格的な登山者まで、それぞれの体力に合った感動を得て、山を好きになる出発点となる山岳公園です。雄大な景観と多様な自然を、ルールを守り安全に楽しんでください。
乗鞍スカイラインの開通直後の雪に覆われた剣ヶ峰を見るライチョウのオスです。