乗鞍岳のライチョウ
乗鞍岳には高山に生きる「孤高の鳥」とも「神の鳥」ともいわれるニホンライチョウが棲んでいます。登山者を恐れぬ、ずんぐりした体形で目にした人を虜にする「高山一の人気者」ですがその生息環境は苛酷で、未来も明るくはありません。
このHPを作成している小屋番自身それほどライチョウについて語れる身ではないのですが、ライチョウ研究の第一人者である信州大学生態研究室の中村浩志教授の知遇を得られ、乗鞍岳のライチョウ生態調査の同行をさせていただくことで学んだことや観察した記録をお伝えすることが、今できることです。
中村先生より教えていただいたライチョウの生態をメモとして以下に述しておきます。
乗鞍岳に来られる際にはお役立てください。
登山道、園路でライチョウと出遭った際にでも思い出して下されば・・・・・
ライチョウの様子 07.10.30
大黒岳で―白い毛がふえて群になっていました
ライチョウとは・・・・・
キジ目ライチョウ科の鳥。学名はLagopus mutus/1955年2月15日に国の特別天然記念物に、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。全長35~40cm、体重430~550gで「グー」とか「グヮー」とかの蛙に似た鳴き声を発します。
どこに、どれぐらい・・・・・
乗鞍岳や隣の御嶽山と、北アルプス、南アルプス、火打岳の本州中部の高山帯(標高2500m以上)にのみ生息し、数は約3000羽以下と言われています。乗鞍岳には推定130~160羽が生息しているようです。
どんな生活・・・・・
雪解けの4月ごろより活動は活発化します。群れの中で雄同士が争い、雌と一夫一妻のつがいを作り繁殖に入ります。6月に入って雌は5~8個ほどの卵を産み暖めます。この間雄はなわばりと雌の防衛をして過ごします。7月に入ってヒナが孵化すると雌が世話をし、雄は家族と離れ単独の生活を送ります。ヒナは雪が降り始める10月には親鳥とほぼ同じ大きさにまで成長し、毛も同様に白くなり冬の群れに入っていきます。冬は強風の為に積雪が少なくなった場所に集まり、わずかな高山植物のついばみ、じっとして餓えをしのぎます。
なぜ、逃げないの・・・・・
日本のライチョウは人を恐れる様子は見せません。しかし、これは日本だけのことで、海外の多くの
国のライチョウは現在も狩猟鳥のため人を見ると飛んで逃げるそうです。稲作文化を基本にした日本で
は里、里山、奥山の住み分けが近代まで続き、特に高山帯は神の領域とされ人が入ることをタブー視し
てきました。そのため、最奥に棲むライチョウは神の鳥とされ狩猟の対象にはならずにきたのです。人
を恐れない日本のライチョウは、日本文化の産物ではないでしょうか。
ライチョウのこれからは・・・・・
ライチョウの未来は明るくはありません。登山者の増加による様々な影響とともに、カラス、チョウゲ
ンボウ、キツネ、ニホンザル、シカ等の本来は低山で生息していた動物が近年は高山帯に進出し、ライ
チョウの生活を脅かすようになってきています。さらに、近年の地球温暖化は、この鳥の生息域を圧迫
してくることが予想されています。
世界の最南端にかろうじて生き残ってきた日本のライチョウは、これからも日本の美しい高山の自然とともに、後世に残していかねばならないものです。
春・ライチョウの繁殖期
雄は雪解けからが大変な季節。個体数の少ない雌をめぐって群れ内の雄同士のなわばり争いを勝ち抜き雌とつがいとなり繁殖に入ります。ヒナの誕生まで雄はなわばりと雌の防衛に気の抜く間もありません。
なわばり争いのために対峙する雄同士
捕食中の雌のために見張り活動をする雄
なわばり内を監視する雄
夏・新しい命の誕生と成長
6月に入ると雌は5~8個の卵を産み、暖め、孵化させます。この間、雄はなわばりと雌を守ります。7月に入ってヒナが誕生すると雌は子育てに専念し、雄は家族を離れ単独生活を送ります。
ハイマツの下の巣に産んだ卵
生まれて間もないヒナを連れた雌親
少し成長したヒナに砂浴びを教える雌親
秋・厳しい冬に備えて
ヒナは初雪が降る10月までに親鳥に近い大きさにまで成長しなければ、厳しい冬を越すことができません。毛も親鳥と同様に白い羽毛へと羽が抜け変わり、冬の群れに入って行きます。
力強く飛翔する若鳥
ヒナも成長し冬毛に近づいた
冬に備えて捕食に励む
ライチョウの1年
乗鞍岳に生きるライチョウの一年を見る
乗鞍岳に生息するライチョウの1月か11月までの生態観察記録です。春夏秋冬、その季節に合せるように羽が換わる様子をご覧ください。
乗鞍岳全域で現在180羽前後のライチョウが生息すると考えられます。
観察は大黒岳頂上園路や肩ノ小屋周辺がポイントです。